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福岡高等裁判所 昭和46年(ラ)36号 決定 1971年8月18日

抗告人 下田ツネ子(仮名) 外二名

相手方 高峰秀夫(仮名) 外七名

主文

本件各抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は「原審判を取り消す。審判費用は相手方の負担とする」というにあり、抗告の理由は別紙のとおりである。

抗告人らおよび抗告代理人藪下晴治の抗告理由一、二について。

所論は、原審判には遺産の範囲を誤認し、かつ、相続財産に関する誤つた鑑定評価を前提として分割の審判をなした違法があるという。しかし、原審判挙示の資料によれば、所論の点に関する原審判の認定判断は相当であつて、所論のごとき違法はない。ことに、不動産等の相続財産は、相続開始後分割までに年月を経過し、その間、遺産を組成する財産のそれぞれの騰落や不均衡を生ずることがあり得るので、その価額の鑑定は分割時(実際には分割時に接着した時点。)を基準とすることが、もつとも公平であり、かつ妥当であると解すべきである。原審判は、昭和四五年一月現在における鑑定人山田豊喜の各物件毎の鑑定評価および同年一二月二二日同人に対する尋問の結果に基づいて行なわれており、審判時との間に或る程度の月日が経過していることが明らかであるけれども、鑑定と同時に分割の審判を行なうことは現実的に不可能であるばかりでなく、本件遺産が値動きの少ない山村の傾斜地であることにかんがみるとき、さして価額の変動はないものと思料されるので、右と同趣旨に出た原審判は、まことに相当というべきである。所論は、原審判を正解せず、独自の見解ないしは本件審判後の鑑定資料等に基づく新たな事実関係を前提として原審判を非難することに帰し、採用の限りでない。

抗告人代理人藪下晴治の抗告理由三、について。

原審判挙示の資料によれば、原審判添付目録20の物件は相続財産であるけれども、同21の物件は高峰春雄の固有財産であつて被相続人高峰進一郎の遺産ではないとした原審判の認定判断は首肯することができる。それ故、右20と21の物件がともに相続財産であることを前提とする所論は、採るを得ない。

抗告代理人藪下晴治の抗告理由四、について。

所論は、原審判には、相続人の一人である高峰秀夫に対する生前贈与(特別受益)を考慮することなく、分割の審判をなしている旨主張する。しかし、原審判を精読すれば、原審判が民法九〇三条に従い所論の点について正当な考慮を払つていることが明らかである。所論は、ひつきよう、原審判を正解せず、独自の見解ないしは事実関係を前提として原審判を非難することに帰し、採用しがたい。

その他の所論は、原審判挙示の資料に照らし、いずれも確認しがたい事実関係を前提とするものであり、また記録を精査しても原審判にはこれを取り消すべきかしは見当らない。原審判は相当であつて、本件抗告は理由がない。

よつて、家事審判法七条、家事審判規則一八条、非訟事件手続法二五条、二六条、民訴法四一四条、三八四条に従い、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 入江啓七郎 裁判官 藤島利行 前田一昭)

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